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なまえ
豊本

 富山県は全国でも珍しい名字が多い県だと言われています。中でも新湊市はちょっと変わった名字が多いようです。例えば、釣さん、波さん、網さん、魚さん、鵜さん、酢さん、味噌さんなど。
 
 気になる方は電話帳を開いてみてください。
 
 さて、名前というのは、昔は知られては困ると考えられていました。名前を知られることは支配されること、殺されることであるという古代信仰に基づくそうです。その結果、日本には次のような難解な名前が誕生したのです。
 
例 月見里さん。
 「やまなし」さんと読みます。山がなく、月がよく見える里という当て字からきています。
 
例 四月一日さん。
 「わたぬき」さんと読みます。4月1日は衣替えで、綿入れの着物からあわせになるという発想です。
 
例 栗花落さん。
 「つゆ」さん「つゆり」さんと読みます。栗の花が落ちる時期がちょうど梅雨入りの頃になります。その当て字だと言われています。
 
 ところで、芸名の由来にも面白いものがあります。ご紹介しましょう。
 
 有名な例なら、タモリは本名の森田をひっくり返したものだとか、江戸川乱歩はアメリカの小説家エドガー・アラン・ポーに漢字を当てたというのがあります。また、「浮雲」で知られる明治初期の文人の二葉亭四迷は、幼少の頃に本ばかり読んでいたので、父親が「おまえのようなやつは、くたばってしまえ。」と怒鳴ったことがあり、それからペンネームを作りました。
 
 さらにはこんな話もあります。宮本武蔵の「ムサシ」は「無三四」と書いていました。これは武蔵の父が「無二斎」(天下に自分ほどの武士は二人といないという意味)と名乗っていたので、ムサシは父の次の「無三四」としました。当時は優秀な武士を諸国が引き抜く時代、武士として成功を収めるには自己PRが大変重要だったのです。
 
 では、最後に天才画家ピカソの本名を紹介しておきましょう。
 
 パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピニァーノ・デ・ラ・サンテシマ・トリニダット・ルイス・イ・ピカソ。

J-PRESS 1997年 6月号