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お正月は・・・
青山

 「♪と~しのは~じめの・・・♪♪」とブラウン管から聞こえるお正月の歌。華やかな着物を着たタレントたちが楽しそうに新年を祝う。「どうせ、去年撮影したんでしょ・・・」と冷めた目でテレビを見る。
 
 最近、これといっておもしろいお正月番組がない。子どもの頃、お正月が楽しみだった。その理由にはお年玉も含まれていたが、大半は、おもしろいテレビが放送されるからだ。その頃は漫才ブームで、チャンネルをひねると、「オサムちゃんで~す!」のザ・ぼんち、「紅葉まんじゅう~!」のB&B、「コマネチ!」のツービート、不良漫才の紳助竜助、個人的にはユートピアが好きだったなあ・・・。とにかく、昔はお正月が待ち遠しかった。しかし今では、日常の生活と変わらない一日を過ごすだけ。違うと言えば、台所には母が作った具沢山のお雑煮とおせち。石油ストーブで焼くお餅のこげた香り。家族それぞれに配り終えた年賀状・・・。
 
 「お正月って何だろう・・・?」 そう思ったとき、大学時代を思い出した。あれは1年の冬休みに、某ホテルでアルバイトに勤しんでいた頃、お正月は時給が2倍という条件に、2日間引き受けてしまった。元旦の仕事の忙しさは大して苦にはならなかったが、その夜、お正月をひとりで迎えるという現実が待っていた。ひとり暗いアパートに帰り、冷たいこたつに電気をつけ、部屋が温まるまでじっと動かずに待つ。普段と変わらないのに何かが違う・・・。テレビをつければ、「おめでとうございます!!」の声。自分だけ違う次元にいるような気分になる。「年賀状きているかな・・・」と思い、息を白くして外に出る。ポストボックスにはたった2枚の年賀状。正月は帰郷すると思い、年賀状を実家宛にした友人たちの気配りが裏目にでた。不意に人恋しくなり、通りに出るが、正月早々開いている店はコンビニだけ。店内には、アルバイトだとすぐに分かる無愛想な若い店員と雑誌を立ち読みしている客がひとり。湯気が立つ肉まん1個を購入し、アパートに戻り、テレビを見ながら、ゆっくりと食べる。部屋の壁の白さがより一層寒さを感じさせ、孤独感を増長させる。「ウチに帰りたい・・・」 毎年変わらない実家の正月風景が、走馬灯のように駆け巡る。この時はじめて家族のありがたさを痛感した。今まで当たり前だと思っていた家族と迎えるお正月が贅沢なことのように思えた。
 
 次の日、2日間のバイトを終え、一目散に帰郷したのは言うまでもない。その年は正月二日の夜からが私の新年だった。
 
 そうなんだ。お正月は、家族といっしょに迎えるものなんだ。家族全員の顔が揃って新しい年を祝う日なんだ。今年は、去年嫁いだ妹が、義理の弟を連れて帰ってきている。ひとり家族が増えたが、毎年変わらないお正月。台所では、母が作った具沢山のお雑煮とおせち。石油ストーブで焼くお餅のこげた香り。家族それぞれに配り終えた年賀状・・・。

J-PRESS 2000年 1月号