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私は「愛犬 桃子」で考えた
石黒

 2000年5月9日(火)、ある獣医科病院での会話。(V:獣医、I:石黒)
 
 V「いやぁ、大分まずい状態ですねぇ。下痢も悪化してるし、体重も3日間で300g減少していますし、これまで蓄えていた体力もなくなってきてますから・・・」
 I「原因は何でしょうか」
 V「親からの免疫も切れたところで、何か良くない細菌でも入ったか、ゴールデンウィーク中に、余りにも多くの人に接したことによる、ストレス性の下痢でしょう」
 
 4月18日にラブラドールの愛犬 桃子がやってきてから3週間後。「世界の犬」などの写真集に載っているのと同じくらいコロコロして愛らしかった桃子(写真参照)が、5月8日突然、絵の具をぶちまけたような下痢。見る見る痩せていくのが分かり、肋骨もくっきり、足腰も弱っているらしく、立っているのも辛そう。3.1kgあった体重も2.5kgまで減り、食欲も1/4以下、食事に対する興味さえ示さない。
 
 その後、2日おきに獣医を訪ね、
 I「この48時間、食事は平均給餌量の半分の、80gくらいしか1日に食べません。便も柔らかく、元気もなく、1日中寝ています」
 V「う~ん、善玉菌より悪玉菌の力が勝っているんですねぇ。注射しておきますので、またあさって来てください」
 
 便をしたといっては、つぶさに観察し「異物が混じっていないか、柔らか過ぎないか、血液は混じっていないか」をチェック。食事においても「食欲はどうか、何g食べるか、残さないか」を傍にいて息を潜めながら、そお~っとチェック。途中で食べるスピードが鈍ると「もっと、もっと食べないと」と祈るような気持ち。全部食べてくれると精一杯の明るい声で「桃ちゃん、偉い偉い、全部食べたねぇ」と誉めてやり。
 
 こんな状態が続くこと2週間。その間「桃子」だけでなく、傍にいる人間、私までもが体調不良をきたし、胃が痛く感じる毎日。私自身の体重も2kg減ってしまい、仕事をしていても、車を運転していても、食事をしていても、どこか晴々としない憂鬱な日々。
 
 「桃子が治るんなら何でもしますから、神様お願いします」とまで思い始め、挙句の果てに、石黒家先祖代々の墓にまでお願いに行く始末。仔犬一匹、たった一匹育てるだけでも、この途方も無い苦労がつきまとう。
 
 考えてみれば、私もいつのまにか43歳。「自分自身の力でよくここまでがんばった、仕事も何とか人並みに出来るように努力している」と胸を張ってみたものの・・・。きっと40年前、私の親が「子育て」に悩み苦しんだであろうことを想像すると、本当に頭の下がる思い。明日からまた、今まで以上に頑張らなきゃと思う今日この頃。

J-PRESS 2000年 6月号