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私は「庭仕事」で考えた
石黒

 「石黒さん、焼けたねえ、真っ黒やないけ!」。この数週間、炎天下でのガーデニングが続いた事が原因。一昨年から可愛がってきたブーゲンビリア。北陸の気候に順応したのか、ゴールデンウィーク頃から満開。買ったときには高さ30cmだったハイビスカス。冬の間、温風ヒーターにあたっていたのに、今では高さ1m80cm、樹木の様相を呈し、数年後には家に入りきらない気配。庭仕事はこれら「南国育ちの植物」を、より大きな鉢に植え替える事が中心となる。
 
 午前9時、気温24℃、湿度41%。烏が鳴こうが、燕が頭上をかすめようが、熊蜂が襲撃してこようが一心不乱の数時間。床石、鹿沼土、腐葉土、肥料も鋤きこんで。花屋のご主人の言葉「冬は越せんと思うけど」とは裏腹に、3年物、直径50cm、総重量35kgのハイビスカスの鉢の出来上がり。同時に「タヒチで休暇してました」調の見事な日焼けも完成。
 
 紫外線はヴィタミンDを作る健康の光であり、たっぷり浴びないと骨が弱くなる…と教育され。庭仕事、アウトドア好きの私、「日焼けは健康にいい、皮膚ガンなんて」と高を括って。太陽を求めて海・山へ繰り出し、無防備な状態で肌をさらす。「ガングロ」の女子高校生を見て、リゾートから帰る飛行機の中で自分より黒く焼けている人を見て、「負けた。今度はもっと焼いてやる!」と決意を新たに。
 
 そんな超非科学的な私に一撃。「小麦色の肌にさよなら」。書店で見つけたキャッチコピーである。「紫外線Bが皮膚にあたると、角化細胞にある酸素分子が電子を帯び、活性酸素を作る。(中略)プロスタグランディンEという物質が作られ、血流が増えて皮膚が赤くなる。これは皮膚の炎症であり、細胞のDNAも傷つけられ、ダメージが大きい時には皮膚ガンの発生につながる。」(『紫外線から子どもを守る本』から抜粋)
 
 航空会社の出発カウンター。リゾート行きのフライトには、サーフボードを抱えた若者達の列。「ノースショアの波は・・・」「ゴールドコーストにはボード仲間がいて・・・」と口々に叫ぶ姿は、何故か出発前から真っ黒。傍のこれまた真っ黒な女の子達、これから搭乗だというのに、ハンドバッグからリップクリームを取り出しながら「SPF50って出たのぉ!?」。
 
 "Slip Slop Slap"。オーストラリアの主要なビ-チの入り口にはこの警告板がある。「外出時には、長袖のシャツを着て(Slip on a shirt)、露出部分にはサンスクリーンを塗り(Slop a sunscreen)、帽子をかぶる(Slap a hat)事を心掛けましょう」。皮膚ガンが世界一多発するオーストラリアでは、皮膚科医が中心となってこのスローガンの普及に努めている。日本でも、母子健康手帳の日光浴を推奨する言葉「日光浴や外気浴していますか?」が、「外気浴していますか?」に変更され3年が経過した。

J-PRESS 2001年 6月号