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仮想旅行
木村

 大学時代の友人とホームページを作っています。プロフィールの欄には「趣味は異文化コミュニケーション」などと偉そうに掲載しています。「異文化」というほど大掛かりなものではなく、もうひとつの趣味である「音楽」に関連して、新しい音楽や各地の音楽事情を追い求めるうちに旅をするようになっただけのものです。しかし自分なりに目的を持って旅をするうちに、旅人になった気でいたのも事実です。そのうち日本を離れて異国を訪れるようになると、音楽だけにとどまらず新鮮なモノが次々と目に飛び込んできました。質素な生活をしていた我家にとっては、他人事の夢物語でしかなかった世界の名所が、一気に現実のモノとなったのです。そしてせっかく出かけるなら、少しでも現地の事情に触れてみたい、言葉を理解したい、それで「異文化コミュニケーション」なわけです。
 数年前に、それまで無縁だったコンピュータの世界に初めて足を踏み入れました。もともと「ハマる」性格なのと、機械的なことが苦手だったこともあって、必要に駆られて仕方なく始めたものです。今では、もちろんコンピュータが趣味ということはありえませんが、「目的」ではなく「手段」として、手放せない毎日を送っています。
 海外旅行にはお金がかかります。例えば、今年のGWのヨーロッパ行きチケットが11万円(日系某航空会社、直行便就航都市までの運賃の一例)とします。「え?安いじゃん?行けそうだよ」と言っていた友人は、次の話で諦めることになります。「いやいや、これに税金や諸費なんかで1万円、成田空港までの費用が3~4万円、現地の空港からホテルまでの移動が・・・、それに宿泊費、食費、そして肝心のお小遣い」「おまけにオミヤゲ?やっぱ無理だねぇ」。なるほど、海外旅行の、海外旅行たる所以はここにあるのですね。
 インターネットで各地のFM放送など音楽を生で聴けることを知ってから、私の旅事情は大きく変わりました。多額の費用と多くの日数、体力、そして危険から身を守るための精神的な疲労を伴う旅をしなくても、異国の音楽事情を知ることができるのですから。どこの国でも流行っている音楽から、そこの土地にしかない独特の音楽まで、現地の時間に現地の人が、生の声で伝えてくれます。音源が必要なら、1週間ほどで現地から届きます。そうなると、現地の生の言葉を理解したくなるわけです。しかし何種類もの言語を翻訳したり、辞書で検索したりすることを、コンピュータで実現できるというのです。もちろん、実際に旅をするのに比べると、仮想旅行で得られるのは些細なモノだけです。その土地の空気や匂い、そこに住む人々を感じたくなったら、やはり本当の旅をするしかありませんが。

J-PRESS 2003年 5月号