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セはセイロンのセ
石川

 40年以上前、セイロンという国からひとりの男性が来日しました。十数年後、彼は毎朝7時24分「グッモーニン、ミスタ トクミツゥ」の声とともにTVに現れ、街行く人を捕まえては英会話を教え込んでいました。彼の名はウィッキー。彼の生まれた国セイロンは、今ではスリランカと呼ばれています。
 
 その「ウィッキーさんのワンポイント英会話」を毎朝見ていた小学生のとき、担任のT先生が仰った言葉を今でもよく覚えています。
 
「正しいことを、胸を張って言える人になりなさい」
 
 身近な例を挙げれば、「夏休みの宿題は早めに終わらせよう」「規則正しい生活をしよう」「ルールを守ろう」といったことです。どれも正論です。でも、正しい意見を言われると、それが正しいからこそ抵抗を感じ、やましさから反論したくなることもあります。「夏休みの宿題は多すぎて早めに終わらせるなんて無理!」「休みの日くらい寝坊したっていいじゃん!」「規則規則じゃ息が詰まっちゃう!」などなど。 でも、心の片隅では言われた意見が正しく、単に自分がだらしなく弱いだけだということも分かっています。だからこそ、正論に対して抵抗を感じ、反感を持ってしまうのでしょう。
 
 T先生が仰った「正しいことを胸を張って言える」とは、「自分に対して厳しく、正しいと思えることを自然に振舞えるようになれ」ということではないかという気がします。
 
 正論ばかりじゃ世の中渡っていけないという人もいます。確かにそうかもしれません。でも、無理が通って道理が引っ込むような、利己的な人ばかりの無秩序な世の中は、決して正しい姿だとは思えません。自分は、ギリギリのところまでは正論に踏みとどまっていたいと思うのです。
 
 そういえば、子供の頃に親や学校の先生から言われたことも正論ばかりでした。「おはよう・ありがとう・ごめんなさいを言えるようになりなさい」「ものを大切にしなさい」「整理整頓をしなさい」「人の話を聞くときは姿勢を正して集中しなさい」と。今だ完全に実行できているとは言えない自分が情けないですが、いつか胸を張って同じ言葉を言えるようになりたいと思います。
 
 以前から、環境やエネルギー問題を考慮して冷房は28℃に!と政府がキャンペーンを行っています。まさに正論なのですが、連日の猛暑、いくら仲間由紀恵嬢の笑顔で訴えかけられてもついつい涼を求めてしまいます。
 
 間違っているという自覚があるのに、エアコンの温度設定を下げてしまう自分自身の弱さを省みると、「正論を、胸を張って言える人」になる日はまだまだ遠いようです。日々是精進。
 

J-PRESS 2004年 8月号