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私は「韓流」で考えた
石黒

 受験シーズン真最中、不謹慎とは思いながらも街中のレンタルビデオショップに足を運んでみた。ちょっとご無沙汰の間にDVDコーナーが勢力を拡大、昔ながらのビデオテープコーナーが面目無さそうに店舗の後方から手招きする。どのビデオショップも顧客の利便性と売上拡大を狙って、ディスプレイには独自のノウハウで工夫を凝らす。今週のBEST、洋画新作、邦画新作から始まってコメディー、アクション、ドキュメンタリー、落語と続く。
 
 昨今の韓流ブームは凄まじい。ビデオショップの救世主となるべく、韓国作品は顧客の主要な動線上にしっかり鎮座。「シュリ」「JSA」から始まり「冬の□▲○」で大ブレイク!韓国人俳優を特集した女性週刊誌、写真集が書店を席巻、大型ショッピングセンターのいたる所で韓流グッズが所狭しと並べられ、地上波TV、ケーブルTVでも古めの韓国テレビドラマで大賑わい。長寿番組:SM●P×SM●Pの人気コーナーにも韓国人女性歌手が。
 
 「韓流ツアー」が大挙して韓国各地に遠征、日本人御用達の著名ホテルのロビーは、バッグを襷がけにし防寒具で完全武装した観光客が出陣の準備に余念がない。「春川って市街から電車で2時間かかるの」「レンタサイクルは1時間3000ウォンよ」「タッカルビって美味しそうじゃない」「生家は春川駅からタクシーで10分よね」、ガイドブックでのイメージトレーニングも佳境に。ロケで使った市内のカフェ、路地裏、高等学校、郊外のスキー場は、。
 
 ブームの火付け役となった韓国ドラマ、40数年前の日本ドラマでも常套手段の「淡い初恋、記憶喪失、すれ違い、再会」がテーマ。バブル時代の風潮に合わずに廃れてしまったこの「古典的恋愛の王道」が、経済がマイナス成長の日本で爆発的にリバイバル。ブームに乗ったほうが楽な昨今、ほんのちょっと前まで「杉サマ、マツケン!」と叫んでいた階層が、ビデオをレンタルするうちに懐古趣味に浸り、隣国:韓国への親近感と韓国人男性への擬似恋愛感を抱くようになる。
 
 ロケ地めぐりのツアーは大盛況、雪だるまが置かれたベンチには記念撮影の順番を待つ長蛇の列、小さな雑貨店には途方も無い群集が押しかける。マスコミはこの「追っかけ系」を追っかけ、熱い韓流映像を日本の茶の間に配信し視聴率を稼いでいく。撮られるほうも撮られる自分に酔い、わざわざ韓国まで足を延ばし大騒ぎしている行動を意義付けし、正統派韓流に身を置く自分を再確認。達成感に満ちた表情がテレビを通して伝播していく。
 
 「韓流ツアー」の最終日はお決まりのグルメ、エステ、ショッピング、猛者はオールナイトでカジノに挑戦。超高層ビルが林立し超ハイテクが支配するメトロポリタン、4000m滑走路2本(数年後には4本)を擁するアジア最大級のハブ空港でこのツアーは終わる。

J-PRESS 2005年 3月号