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私は「ヘルスメーター」で考えた
石黒

 ゴールデンウイーク明けの5月9日午前9時、遊び過ぎ、食べ過ぎ、飲み過ぎの重い身体を、息を止めてヘルスメーターに載せてみる。体重はもちろん体脂肪率、基礎代謝量、内臓脂肪、推定骨量をも表示する最新鋭マシンは、厳しく「71.1kg/22.1/1507kcal…」と宣告、ここ数日の悪行を回想する。ガイドブックの一押しグルメ情報にポストイットを貼付け、東奔西走。「老夫婦が切り盛りする大衆食堂」「済州島からお取寄せの黒豚を使用」「釜山港の市場から直送した海鮮食材」、キャッチコピーを鵜呑みにし1日5食、摂取熱量4200kcalの滅茶苦茶な旅行。
 
 韓国釜山で見つけた「カムジャタン(豚骨ジャガイモ鍋)」、韓国で最もポピュラーな鍋料理のひとつ。豚の背骨(ちょっぴり肉付き)と丸ごとのジャガイモ、長ねぎをちょっぴり辛い唐辛子味のスープでじっくり煮込んだ逸品。握りこぶし大のジャガイモが、時間とともに背骨から染み出す魑魅魍魎な臭いを伴いぐつぐつと。「さぁ食べごろか!?」と金属製の箸を伸ばそうとするや、60代後半のおばさんが身勝手な行動をピシャリと制止。長年培った奥深い技術で背骨を移動しジャガイモを回転、頃合を見て別皿に取り分ける。背骨からほろほろ崩れる肉、湯気が立ちのぼるジャガイモ。
 
 最近の女性情報誌はスローライフ、スローフードが合言葉。かつての豪華絢爛な美食礼賛からうって変わって、一軒宿で静かに楽しむ季節の創作料理がメインテーマ。マイナスイオンが溢れる山裾の超高級老舗旅館、果てし無く続く海岸線を独り占め出来そうなオーベルジュがグラビアを飾る。「木漏れ日のもと、有機栽培の厳選野菜をゆっくり時間をかけて頂く、至福のときが静かに流れる」「木々の奏でるハーモニー、森の小動物達の囁きが貴方を真のリラクゼーションへ」。日頃朝食を抜き、昼食の時間は20分、私には無縁の世界がそこにある。
 
 「身体が重い」、溜息ともつかない独り言。健康だけが自慢であった私は先日、職場を抜け出し総合病院へ。年貢の納め時を覚悟し診察室に入る。「どうしました?(中略)これを機会に総合的な検査を受けてください」。渡されたファイルを手に血液、レントゲン、心電図と検査が続いた。内科医の宣告は、「血液検査その他の結果、至急、体質を改善しなければ色々な病気を引き起こす事になります」。脂肪値、血糖値等の改善のため、食生活の抜本的見直しが急務。カロリー計算を怠らない、1日2回の血圧測定を。「あなた自身のためですよ!」と内科医。
 
 健康を映し出す鏡を手にした現在、惰眠を貪る日常生活を更なる厳しい「鏡」で映し出さねばと思う。

J-PRESS 2005年 6月号