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私は「圏外」で考えた
石黒

 06:30、起床。久々の休暇、お気に入りの「JTA031便:08:35発那覇行」に乗込むべく、07:00、小松空港へと車を出発させる。昨夜から調査済みの沖縄そばの有名店、沖縄本島最北端の集落「奥」に思いを馳せながらの運転。07:53、空港着、セキュリティーを抜け搭乗待合室に。J社の08:00発羽田行き、A社の08:45発羽田行きを利用予定の数百人の乗客で用意された椅子は満杯。携帯電話を握り締めたビジネスマンの大群に、間抜けな軽装の私は飲み込まれる。(中略)
 
 11:02、2時間21分のフライトでランディング。狭い機内に閉じ込められていた乗客は、口々に「石垣島へのフライトまであと50分」「今帰仁まで高速使って80分」「ゆいレールで牧志まで何分かかる?」。私は先ず空港ロビーで紅芋アイスで一服。空港から少し離れたレンタカー会社で、今にも壊れそうなコンパクトカーを借りる。トランクに荷物を積み込み、文字通り絵の具をぶちまけたようなエメラルドグリーンの海岸線を北上、やんばる(北部)にある民宿を目指して数時間のドライブ。
 
 流木にペンキで民宿「○△■」と書かれた看板を何とか見つける。亜熱帯植物の生い茂る庭に茅葺の建物、「こんにちわぁーっ!」と大きな声で宿主を呼んでみる、何度も何度も呼んでみる。人の気配はまったく無し、玄関の戸が開いていて中の様子が覗える。泡盛の甕、食材の入った段ボール、南国沖縄に似合わない囲炉裏、ハブの抜け殻が散乱。仕方なく建物の周囲を捜索、拾ってきたガラクタがオブジェのように庭中に。そこにひょっこり白い老犬、「あんた今日泊まるのかい!?」確かにそう言ったような気がする。
 
 人口百余人の「奥」集落、車を降り歩き始める。漆喰で固めた屋根が風化、シーサーも朽ち廃墟同然に見える民家が二十数件。細い路地の曲がり角から老婆が近づいてくる、「こんにちわぁ」。乳飲み子を負ぶった少女、慣れた口調で「お母さん、もうすぐ帰ってくるからねぇ」。小一時間して民宿に戻る。泡盛で出来上がった宿主が上半身裸で出迎えてくれる。「石黒さん? こっちの手違いなんだけど今日相部屋いいかなぁ? こっち高木さん、朝、糸満から自転車で来たさぁ」。携帯電話は「圏外」、万事休す。(後略)

J-PRESS 2007年 1月号