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思いと人を動かすもの
深田

 スポーツには、見ているものを動かす力がある。
 
 今年2007年、日本のスポーツ界最大のイベントは、8月に大阪で開催される世界陸上。今回もマラソンが注目の的。しかし、フィールド競技で有望選手が出現した。女子走り幅跳びの池田久美子で、先のアジア大会でも優勝。昨年出した日本記録6m86cmは世界ランクで6位に相当。やはり女子砲丸投げで日本のホープだった森千夏とは、同じ陸上部に所属し同期。「北京五輪で森ちゃんが20m投げて、私が7m跳んでメダルを取る」と約束するが、残酷にも千夏は虫垂ガンのため昨夏26歳の若さで世を去る。親友と誓った7mを、大阪の舞台で見せればメダルも北京も見えてくる。
 
 野球では、オフを沸かせた100万ドル投手松坂大輔はもちろんだが、同世代のホークス和田毅。剛球松坂とは対照的に、投球術もクレバー。さらに松坂にない勲章を手にしている。昨年末、プロ野球選手の社会貢献を顕彰している報知ゴールデンスピリット賞を受賞。彼は「ワクチン1本で多くの子供の命を救えること」を知り、05年から自分の公式戦登板時の投球数にあわせたワクチン寄贈ルールを作り、シリーズ終了後寄贈している。1球につき10本を基本に05年は45,770本、06年は完投なら1球につき30本、完封なら40本に本数を増やし、プレーオフを含めた2,705球分、54,810本のワクチンを贈った。これをテーマに現在、公共広告機構(AC)が「僕のルール」をテレビなどでキャンペーンしている。ワクチン1本で多くの子供の命を救える、そのことを胸に王監督の胴上げを目指す。
 
 宮里藍が抜けた日本女子ゴルフ界を引っ張っているのが大山志保。昨年は4月にまず1勝すると、8月までに5度の優勝を重ね賞金王。若手を寄せ付けない圧倒的な強さを見せた。2年前から新しい指導者の元でスイング改造に取り組み、安定感が増し、距離も伸び、技術的に大きく脱皮した。さらに彼女には強い気持ちがある。「両親には大学に行かせてもらいプロになるまでも大変な苦労をさせた。両親の助けがあればこそ今の自分はある」と言い、個人タクシーを営む父親に新車をプレゼント。さらに昨年は両親に新居を建てた。「両親への恩返しのために、トップとの差が開いてもネバーギブアップの精神で挑む」今年も若手を押さえた活躍を見たい。
 
 彼らだけではなく、スポーツ選手の活躍にはそれぞれの持つ思いが隠されている。それらが強ければ強いほど、困難に直面したときに乗り切る力になり、偉大な成績につながるのだろう。愛情、友情、信念、プライド‥人によって思いは違うが、それは人生でも同じと言えるだろう。

J-PRESS 2007年 3月号