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タは単位のタ
石川

 少し前の話になりますが、夏期講習期間中に某ショッピングセンターの自転車売り場へ盗難防止用チェーンを買いに行ったところ、自転車を買いに来たと思われる高校生達の会話が耳に入ってきました。
 
 「このタイヤのサイズの26ちゃ何よ」
 「そんなもんタイヤの半径26センチいうことに決まっとんねか」
 
 今の日本だと長さはほとんどメートル法で表されるし、勘違いしても仕方ないかもしれないと納得しつつ、インチやフィートやヤードが他に使われるのはテレビの画面サイズやゴルフコースの距離、あとはせいぜい飛行機の高度ぐらいかな、と考えているうちに彼らはいなくなっていました。
 
 どちらかといえば合理性を重んじる西洋諸国の中でもとくにその傾向が強そうなアメリカで理路整然としたメートル法が使われず、いまだにインチやらフィートやらヤードといった単位が使われているのが昔から不思議でした。
 1フィート =30.4cmで、1ヤードは 3フィート(=91.44cm)、1インチは1/12フィート(=2.54cm)、1マイルは1760ヤード、ということは5280フィート(=1609.3m)。いくら昔から使っていて生活に浸透しているとは言っても、こんなややこしい単位を使い続けられるなんてメートル法の分かり易さに慣れた自分には想像できません。
 古代の国家では王様の身体のサイズを基準に長さの単位が決められ、王様が代替わりすると長さの基準も変わるなんて面倒くさいことをしていたところもあったようですから、それに比べればまだマシかもしれませんけど。
 
 チェーンを買って食料品売り場に寄ると「新湊産アオリイカ 1杯100円!」「豆腐 1丁88円!!」などの派手なPOPが並んでいるのを見て、数の単位なら日本はアメリカ以上に非効率的かもしれないと気づきました。
 ウサギは1羽、蝶は1頭、服は1着、たんすは1棹、食パンは1斤、ハガキは1葉…。それぞれ由来はあるにせよ、きっと英語を母国語とする人たちからすれば、「何デソンナニ単位ヲ使イ分ケルデスカ? ニポン人マカフシギデ~ス」といった感じかもしれません。
 
 帰り道、それでもやっぱり長さの単位ぐらいはメートル法で統一して欲しいよなぁと考えながら歩いていると、空き地に立てられた看板に「売り地 200m2」と書いてありました。「200m2ってことは何坪だ? 1坪が3.3m2だから…」と無意識に計算している自分に気づき、伝統的な日本の単位を使っている自分だってアメリカ人と大差ないなぁと苦笑いしてしまいました。
 
 自分も含めて多くの人間は、合理性より慣習を優先してしまうのかもしれません。1尺がメートル法では割り切れないように、人間の思考も理屈だけでは割り切れないようです。

J-PRESS 2008年 12月号