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私は「座席番号1K」で考えた
石黒

 深夜、同級生小岩君から電話。学生時代にやっていたバンドがテレビ局の予選に通った、3月に北海道のスタジオでレコーディング、You Tube用のビデオ撮影もしたいとの事。何とか休暇を取った。午前9時小松空港、チェックインを済ませる。座席番号1K、我侭な私は最前列が大好き、地方議員の▲、中堅企業の幹部の姿が。客室乗務員が、「▲様、いつもご搭乗ありがとうございます」、「N新聞ある?」、「申し訳ございません、新聞サービスは…」。▲様、不満そうな顔で足を伸ばし、流れる音楽に合わせ両手両足ストレッチ(中略)。羽田経由で北の大地へ。
 
 北海道を効率良く満喫するにはレンタカーが一番、ガイドブックで練り上げた計画通り、動物園、グルメ、大自然へ連れて行ってくれる。そんな常識を打破する「公共交通機関だけ!」が今回の一人旅のテーマ、迷わず空港から市内へ向かう連絡バスに。車窓にへばり付く、雪解け間近の畑から陽に照らされ湯気が、牛舎から産まれたばかりの子牛が、簡易舗装の道路が捲れ上がり黒い土が顔を出す。トラクターのエンジン音が春の到来を予感させる。
 
 スタジオは郊外のショッピングセンターに隣接。小さなバスターミナルの切符売場の60代のおばさんに、「●へ行きたいんですが?」、「8番乗り場ね、■って停留所で降りて。釣具屋さんが見えたら運転手さんに言って」。バスは昔何度も通った大通りを。「このまんじゅう屋、こんな所にあったのか」、「北海道のお寺は屋根がトタン葺きなんだ」。乗客は買物帰りのおばあちゃん一人、「バスが停止してから席をお立ち下さい」の貼紙が春風になびく。
 
 翌日もバス利用。世話になるB&B(西洋民宿)へは一日5本、2時間おき。「十勝牧場の次まで行きたいんですけど」、「東士狩入口ね、580円」。今時珍しい厚紙の切符、手書きで停留所名と料金を書いてくれた。バスを降りB&Bまで1.5kmを歩く、北風が容赦無く吹き体感温度マイナス15℃。地平線が見える雪原にぽつんと離農した農家の作業小屋、カラマツの防風林が強風に立ち向かう。「ワオォォッー」、聞き慣れた宿の犬ペペの鳴声、涙が溢れる。
 
 最終日、「釧路湿原、鈍行列車の旅」を決行。蛇行する川、見渡す限りの湿原、霧に見え隠れする湖。突然列車がスピードを落とす、数頭のエゾシカが線路に横たわる、運転手はそっと汽笛を鳴らす(中略)。帰路木造の小さい駅舎で一人鈍行列車を待つ。一台の車が停まる、「どこ行くんだい?」、「釧路駅、そして釧路空港です」、「時間あるんだろ?オレ?加藤、乗っけてってやるから」。軽自動車は2時間、葦の匂いのする湿原を駆け巡った。

J-PRESS 2010年 4月号