私は「豪雪」で考えた石黒
「明さん見てみられ! この10年で一番ひどい雪やわ!」、沖縄から嫁いだ母の昨日の第一声。屋根雪は築55年の木造家屋を今にも潰しそうな様相、積雪は1mを超え庭木が悲鳴を上げる(31日午後11時現在、高岡市伏木125cm)。カーポートには水分を含んだ重い雪が。「愛車が危ない!」、慣れない除雪道具やアルミ製脚立を携えいざ出陣。高さ2.5mの屋根で悪戦苦闘、数分後「ぎくっ!」、これまで耳にした事の無い異音と激痛が右肩に走る。「除雪で無理をしたと言うより年齢的なものもありますね、靭帯が…」、外科医S先生の診断である。
富山県には十年おきに豪雪が襲ってくる。「三八豪雪」、保育園児だった私にも当時の情景が強烈に記憶に刻まれている。積雪は3m超、雪は二階部分の屋根に達し母屋をすっぽり飲み込む。出入りは二階の窓から、辛うじて電気、電話などのライフラインは活きているものの寸断は時間の問題。越冬用の野菜など食料の備蓄はあっても、育ち盛りの幼い4人兄弟の必須栄養素、卵、魚、肉が底をつく。父は7人家族を救うべく竹スキーに跨り、屋根まで積った雪山の縁に立ち「行ってくる!」と一言。祖母、母、4人兄弟は父の姿が小さくなるまで見送った。
閑話休題。
正月明けの農村の公民館は各種の集まりで大賑わい。「●▲地区営農組合」「●▲地区自治会」「●▲地区昭栄会」、それぞれの会が会計報告を兼ねた新年会を実施。大型石油ストーブが音を立て、熱すぎる湯飲みの緑茶が華を添える。「禁煙」という時代の趨勢もここでは無縁、タバコの煙が畳敷きの集会場を闊歩する。突然、「次年度は会の慣習に従い輪番制で石黒さんに会長を…」。寝耳に水。先ずは初春の親睦会、春先からは江浚い(エザライ、全住民による村落全体の側溝清掃)、地蔵祭り、ごみ集積場の改修、夏祭り、忘年会の手配、が待っている。
「春の親睦会のご案内」が完成、全家庭への配布に向かう。四輪駆動の愛車は農道を縦横無尽、かと思えば吹溜りに突っ込み右往左往、雪水を湛えた農業用水がゴーゴー音を立てて流れる。村一番の大地主の農家に到着、築100年を超える母屋までは農道から30m、腰まである積雪をラッセルしながらやっと玄関に。呼鈴に反応は無い、確か90歳を超えるお婆ちゃんが住んでいるはずだが。軒先まで届く雪の壁の向うから人の声がする。「なーん恐ろしないがいぞ、雪恐ろしないがいぞ」、繋がれた老犬に優しくゆっくりと語りかける老婆の姿があった。