私は「秋」で考えた石黒
台風が過ぎ去った9月下旬、30℃の日が続いたかと思えば14℃、「温風ヒーターを点けよう!」と思わせる夜が来たり。頭を垂れた稲穂が広がる田んぼは、コンバインの切刻んだ稲わらが土を覆い尽くす風景に変貌、煩かった蝉の鳴声は影を潜める。農機具の機械音が秋の到来を告げ、キリギリス、鈴虫やコオロギの大合唱が始まる。
休日、快晴。14年間付合っている愛車を納屋から引張りだす、埃だらけだったが幸いエンジンがかかった。農業用水が横を流れる細い農道を進む。あちらこちらに農作業車が落としていった泥や雑草が散乱、カラスに混じって落穂目当ての多様な野鳥の姿も。「保護者のMさんに教えてもらった氷見の食堂に行こう!」。愛車は乾いたエンジン音を響かせ散居村を進む。
見慣れた稲刈りの終わった田んぼの風景の中に学校らしき建物がポツン、細い農道を分け入り進む。「ここか!?」、11時40分開店(微妙な時刻)、メニューはラーメン並・大、うどん数種、そしてご飯。「ラーメン大お願いします」「はい」、昼時だというのにお客はまばら、空席が目立つ。全員がラーメンを注文している。テレビも消えた店内にラーメンをすする音だけが響く。
氷見を後にする。愛車の年齢を考え旧道の海岸線を時速45kmで走る。城西のデザインを担当しているNさん絶賛のコロッケを求め伏木の肉屋さんへ。「こんにちはコロッケください、あと…」「何個揚げるが?」「15個です」「あと何け?」。ご主人はフライヤーを凝視、右手の菜ばしが15個のコロッケの機嫌を覗う。傍を走る汽車の轟音と警報機の鐘が油のはねる音をかき消す。
コロッケが冷めないように西日を浴びせながら庄川町へ。実家の修繕をお願いしている工務店の奥様に届け帰路に。小一時間もしないうちに呼鈴が鳴る。スーツ姿の男性が「先ほどは珍しい物を頂戴しました。これはどじょうの蒲焼です」。食べきれない!夕日が照らすあぜ道をサンダル履きで、籾摺機が唸る隣の農家にお裾分け。
翌朝も快晴、早起きのすずめ達の煩いこと。突然玄関で物音が「どさっ、ず、ずずぅーっ」、そこには直径50cmはあろうかと思われる里芋の葉っぱ(茎付き)が山積み。「今晩は赤ずいきが楽しめる!」。朝日に照らされながらあぜ道を帰って行く、隣のお婆ちゃんの少し腰の曲がった姿が見えた。