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私は「裏路地」で考えた
石黒

 先月名古屋で開かれた元学習塾塾長、現国会議員主催の政経セミナーに参加。200余名の聴衆と共に著名国務大臣の講演を拝聴した。知人の車で三重県津市に移動、学習塾関係者の待つ居酒屋に到着。「いつも日帰りの石黒さんが三重県で宿泊するとは」、旧知の面々と三重県の特産品に舌鼓。「えっ答志島に行くって!?」、翌朝私が鳥羽港からフェリーで渡ると話すと感嘆の声が上がった。
 
 快晴、予定より一本早い8時02分発の近鉄特急に乗り込み30分程度で鳥羽駅に到着、「高級料理旅館」「伊勢湾を望む高級リゾートホテル」を横目に市営連絡船桟橋に向かう。定員50人足らずの小型船、数十羽のカモメと共に名も知れぬ島々の間を縫うように伊勢湾を進む。鳥羽港を出て菅島(鳥羽港からは答志島、菅島、坂手島、神島の4島に旅客船が就航)を経由し、50分程度で答志港に到着。船からは10数人の乗客と共に大型段ボール箱や宅配便の荷物が降ろされる。
 
 朝10時、「これからどうしよう!?」。ネットで予習はしてきたものの、桟橋から続く道路では老婆が魚網を繕い、生シラスを満載した軽トラックが疾走。見えるのは漁協の建物、「何とか風波に耐えてます」と頑張っている海産物店、「釣人歓迎」と書かれた旅館が数軒。住宅街とも商店街とも区別のつかない集落に潜入。幅2 m弱の裏路地に、床屋、タバコ屋、日用品店、食堂、喫茶店、お地蔵さん…生活の全てが集積。路地では日の光も滞り方向感覚をも奪われ地図も用を足さない。
 
 「こんにちは!」、5歳くらいの少女に声をかけられる。カメラを構え携帯電話を握り締め、ガイドブック片手に闊歩する滑稽さ。食堂の暖簾を潜る。日替わり定食、「答志島で取れた新鮮な素材だけを…」、迷わず注文。タコ、がごめの昆布巻、カレイの干物、生シラスの酢味噌和え、小エビのかき揚げ、キスの天ぷら…。「あれっ、シラス好きかい?」、お玉一杯のシラスが追加サービス。「あんたどこから?一人?どこに泊まるの?」、オバちゃんが厨房から矢継ぎ早の攻撃、あえなく完敗。
 
 徒歩でもうひとつの集落、和具へ向かう。カモメの群がる灯台、鳥居が朽ちかけた神社、老人が店番をする水産物屋を覗く。「シャコ!」「食べるかい?欲しけりゃ好きなだけ持って行きな。帰りの連絡船、4時だろ。旨い酒あるから飲んで行け」。自転車にまたがった数人の小学生が漁港の競り場で遊ぶ、「宿題終わった?」「答志島小学校、宿題無いもん!」、満面笑みの返事が返ってきた。本日の歩行距離12 km。

J-PRESS 2011年 12月号