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「否定」は難しい?おもしろい?
小野

 数学や英語で否定ということを扱います。たとえば、「3の倍数」の否定は、「3の倍数でない」とか、“Tom likes dogs.”の否定は“Ton doesn't like dogs.”などです。生徒にとっては、難しいと感じるところかもしれませんが、日常生活で私たちはもっと難しい否定を扱っている気がします。今回はそんな「否定」について考えてみました。
 
 たとえば、公園に行こうと思って家の人に「公園に行ってくる。」は普通の会話ですが、今日はどこにも行かないからといって「公園に行かない。」といきなり言ったら、家族の人は???となってしまいそうです。
 
 別にウソを言っているわけではないし、間違ったことも言っていません。それこそ「アメリカに行かないよ。」と言ってもいいわけです。
 
 これは私たちが普段、「否定」を使うとき、ある意見に対して「否定」を使っているからだと思います。「みんなで公園に行くよ。」「僕は公園に行かないよ。」これなら普通の会話として成り立ちます。
 
 さらにおもしろいのが、「今日は公園に行かないよ。」と言った場合、この裏には、「今日ではなく明日行くよ」とか「公園ではなくゲーセンに行くよ」といった肯定の意味も含まれていることがよくあります。言葉の上では「否定」なのですが実際には「否定+肯定」の発言というわけです。
 
 それだけではありません。(1)「A君のこと好きなの?」、(2)「好きじゃないよ」、(3)「なんだ、嫌いなんだ」。これもありがちな会話ですが、単純に「否定」の意味で考えると(3)はおかしな発言です。「好き」でないからとって「嫌い」とは限らないからです。A君のことを友だちと思っているだけかもしれませんし、そもそもA君のことを知らないのかもしれません。もし(2)の発言が男性のセリフなら事態はちょっと複雑そうです。それはともかくとして、(3)のセリフが成り立つのは、「好き」でないならその反対の「嫌い」という認識がお互いにある時に限ってだと思います。
 
 実はこの種の会話は多く、相手も同じ認識だと思って発言すると実は違っていて、それが誤解を生んだり、すれ違いを引き起こしたりしているようにも思います。では最後に次の会話を考えてみましょう。Aの言っていることが本当だとして、Bの言っていることは正しいのでしょうか。
 
 A:「よく吠える犬って弱いんだよ。うちで飼っているポチもよく吠えるんだけどね。」
 B:「じゃあ、ポチは弱いんだね。」
 
 会話としては、一見成り立っているようにみえますが、Bの発言は決して納得できるものではありません。だってポチが犬ってAは言ってない。もしかしたら、トラなのかも…

J-PRESS 2012年 9月号