城西セミナー城西セミナー

私は「銚子電鉄」で考えた
石黒

 残暑厳しき9月中旬、30℃超えの猛暑の中を千葉県へ。千葉と言えば羽田空港への最終アプローチの際、眼下に見下ろす東京ディズニーリゾートしか認識が無く。降り立ったJR海浜幕張駅、再開発(新規開発)が進み農村出身の私には驚愕の世界。「ちょっとお高い都市型ホテル」が建並び、ロードサイドのCafeの窓際はタブレット型端末を操る老若男女で埋め尽くされ。
 
 古き良き時代を模したアイリッシュパブで催されたパーティー。今風の業界で活躍する招待客、日頃口に出来ない豪華絢爛な酒肴、敏腕プロデューサーの手による洒落た演出が目を引く。「如何でしょうか?お気に召しましたか?」、贅を尽くした桃源郷も50代半ばのオヤジには…閉会の挨拶もそこそこに海浜幕張駅へ。海浜幕張⇒蘇我⇒大網⇒成東⇒JR銚子駅、普通列車4本を乗り継ぎ午後10時到着。
 
 銚子電鉄に乗車するが為に銚子に。(銚子鉄道株式会社、1922年開業、銚子―外川間全6.4km、1988年に自己破産したが自治体、有志の協力を得て現在に至る)古文書を紐解き史学を究める知人がその車両をブログで紹介しているのを目にし決行。
 
 銚子電鉄銚子駅。始発駅にも関わらず無人駅、無造作に置かれたベンチに地味な服装の30代と50代の男性が二人。「電車は終点でどれくらいで折り返しますか?」「7分かな、写真撮る時間はありますよ」。ホームに茶色く錆付いた電車が入ってくる、二両編成、数人の乗客が乗降、車内は大きな荷物を背負ったご婦人とお孫さん。発車のベル、気付けば先程の男性が運転士と車掌、電車は民家の軒を掠め…。
 
 終点外川駅。駅舎も周辺界隈も昭和そのもの、待機線には昭和初期から使われている電車、銚子名物の干物屋が一軒。折り返しの電車に飛び乗り犬吠崎灯台へ、99段の階段と数キロの散策で疲労困憊、帰路の犬吠駅に辿り着く。待合室からは香ばしい香り、ご存知銚子の「ぬれ煎餅」、数人のおばちゃんが笑顔で焼く、裏返す、焼く、秘伝のたれに浸す、をくり返す。「食べてみて、本当に美味しいんだから」。
 
 2006年、銚子電鉄は電車の法定検査費用が枯渇する緊急事態に。これを救ったのが全国の愛好家、地域住民の献身的な協力、銚子電鉄マンの熱い心意気、そして煎餅を焼き続けるおばちゃん職員の笑顔であったという。

J-PRESS 2012年 10月号