私は「地球アゴラ」で考えた石黒
NHKの番組「地球アゴラ」(アゴラとは古代ギリシャで「広場」を意味する)、ウェブカメラを使い世界で暮らす日本人とスタジオを結び、現地で関心を呼んでいる話題やワールドワイドな情報をお茶の間に。大学時代のクラスメイト「タイ在住22年小岩淳志氏」が2週間前に出演、タイのスコータイ地区の珍しい情報を届けてくれた。「農業に従事する人たちにとってパチンコ(ゴム鉄砲)は必需品。マンゴーを樹から採る時、牛を追う時に重宝する」。
小岩君、大学卒業後9年間「北海道ホルスタイン農業協同組合」に勤務、乳牛の血統管理に従事。1990年のある日、JICA(国際協力機構)が「タイに赴任する青年海外協力隊員を募集中」との情報を。「不退転の決意」で前勤務先に辞表を、JICAに応募書類を提出、その足で空港に向かう。タイ・ドンムアン空港からバンコク市内へ。アパートを借り朝6時から夜遅くまで語学学校へ通う毎日、集中講義が功を奏し半年間で「タイ語で夢をみる」までに。
赴任地はバンコクから北へ440kmのスコータイ。陸路で10時間、JICAの駐在員が出迎える、「小岩さん、ようこそスコータイへ。現地へはもうちょっと…」。トラックの荷台に乗せられ土煙が舞う悪路を6時間、山や谷を越え黄金色の夕闇迫る農村に到着。現れたのは風通しの良さそうな高床式のタイ風建築、30畳は有ろうかという部屋に案内される。「これが私の求めていたタイだ!」と武者震いを抑えつつ長椅子に、屋根に遊ぶ原色の野鳥を眺める。
「小岩さん、こちらが家の主、奥さん。向こうが弟の…」、総勢15人の大家族。これから3年間、仕切も無いこの一部屋で寝起きを共にするという。幼子が足元に纏わりつき、部屋の片隅からはかまどの煙、飼犬が横になり子犬に乳を含ませる。生活の全てがこの部屋に凝縮されている現実に気付く。階下から人の声、恐る恐る降りてみると村人の手に黒光りする3匹のネズミ。「小岩さん良かったね!一番のご馳走を味わえますよ」、駐在員は微笑んだ。
灌漑設備もお粗末な荒れた耕地、肉牛・乳牛ともに痩せ細り…天気次第、気分次第の農民たちと寝食を共にし、農業技術を根気強く伝承する日々。ある日、村の長(おさ)が微笑みながら「コイワサン、牛に乗りたくないか!?」「乗りたいです!」、これが僧侶へ誘いとも知らず…早朝の托鉢、サンスクリット語で書かれた経典の暗記、俗世界と遮断された寺院での生活。半年後、夕日に映える畦道を進む象の背に、袈裟を纏った小岩君の姿があった。