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サはサインのサ
石川

 数学の授業中、三角比の説明で、「sin(サイン)はsの筆記体を書くようにして…」、と口では説明しつつ、頭のなかでは「筆記体って最近使わないよなあ」と別のことを考えていました。
 
 自分が中1の時、英語の授業で筆記体を教わりました。そして習ったばかりの頃は、なぜか自分も周囲の友達の多くも「筆記体のほうがカッコイイ」という感覚に陥っていたような気がします。自分の名前を筆記体で書くことから始まって、英語はノートも答案も筆記体、さらに数学の文字式や理科の公式などもアルファベットはみな筆記体で書くようになり、ブロック体は格好悪くて筆記体のほうが格好いいという風潮に。
 
 しかし、欧米の映画やドラマを観ていると、登場人物たちが意外と筆記体を使わないことに気づきました。筆記体を使うのは、ちょっとしたメモや署名のときぐらいで、ある程度の長さの文章はタイプやワープロが主流です。
 
 しかも、彼らの筆記体の読みにくいことと言ったら、何が書いてあるか分からないレベル。そういえば、少し前にアメリカの財務長官の署名があまりにもひどいと話題になりました。紙幣に長官の署名が印刷されるので、大統領からの指示で改善されたみたいですが。
 
 考えてみれば、「筆記体」というのは日本語の「行書」や「草書」にあたるものです。私達が日本語を行書や草書で書くことはほとんどありませんよね。書道や、手書きの年賀状、あとは和食店の看板やお品書きなど、限られた場面でしか使わないものです。
 
 自分の祖父母の世代の人達は普段から行書・草書を使っていました。欧米でもタイプライタすら無かった時代には筆記体を多用していたようですから、手書きの衰退とともに筆記体も役目を終えていったのでしょうか。
 
 時代とともに廃れた筆記体と同じく、「筆記体カッコイイ」の流行も去り、中2になる頃には周囲で筆記体を使っている友達は、ほとんどいませんでした。自分は筆記体を書くのがどうも苦手で、早々に挫折してブロック体で書くようになっていましたが、中には「筆記体カッコイイ」を引きずっている友達も何人かいました。今思えば、あれはいわゆる中二病だったのかもしれません。
 
 現在、筆記体を使う利点といえば、模倣されにくいということぐらいでしょうか。クレジットカードや各種契約書、パスポートなど手書きの署名をする場面は、まだまだ多く残っています。
 
 なるほど、…だからサインは筆記体。

J-PRESS 2014年 2月号