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ドは道具のド
石川

 お風呂掃除のために吸水力の高いクロスを購入。期待通りの性能で、浴室内の水滴を効率よく拭き取ることができる。この手の特殊なクロスを初めて知ったのは、10年ほど前、深夜のテレビショッピングだったと思うけど、当時は1枚数千円だったはず。今回購入したものは税込み596円。お買い得。
 
 手早く水気を拭き取れるので大助かりだけど、浴室掃除はこのクロスがなければ出来ない仕事ではない。普通の布製雑巾を使っても同じ作業は可能だ。ただし効率は悪くなる。
 
 日常のあらゆる作業は便利な道具・良い道具を使うと楽になることが多い。でも、その道具がなければ出来ない作業というのは案外少ない。他の道具で代用可能なことがほとんどだ。
 
 以前、自宅の清掃用に高圧洗浄機を購入したけれど、バケツとタワシと根気があれば同様の効果は得られる。扇風機がなくても団扇で涼しくはなるし、ピーラーがなければ包丁で皮剥きはできる。あくまでも作業効率の違い。
 
 同じ結果であれば、普通は楽な方法を選ぶ。そのために便利な道具を用意する。でも、忘れてならないのは、道具を使っても能力が上がるわけではないということ。どんなに良い道具を使っても、その人に出来ることを超えた結果は得られない。
 
 今の自分に最高級の茶道具を与えてもらっても上手に茶を点てることは出来ないし、オーダーメイドのスパイクとウェアを作ってもらってもサッカーが上手くなるわけでもない。上手く使いこなしている人のやり方をよく見て、真似て自分でも何度か繰り返し使ってみる。そうすると道具の特性や仕組みが理解できて使いこなせるようになり、結果として能力の向上につながる。
 
 数学の公式や定理も道具。中学3年生は、もうすぐ「三平方の定理」を学習するけれど、「三角形の面積の公式」や「相似な図形」などを組み合わせれば、入試問題だって定理を使わずに解くことは出来る。便利な道具である公式や定理も、ただ持っているだけじゃもったいない。
 
 でも、新しい道具にはヤル気を呼び起こすという効能はある。自転車を買ったら用もないのに遠出したくなったり、カメラを買ったら目に入るものを片っ端から撮ってみたり、包丁を買ったら普段つくらない料理に挑戦したり。
 
 だから、お気に入りのシャープペンやノートや定規などを買ってみるのも勉強する気持ちを盛り上げるきっかけになるかもしれない。良い道具は長く使えるし、使えば使うほど手に馴染むから、結局お買い得。

J-PRESS 2014年 11月号