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私は「三時間」で考えた
石黒

 国内航空会社と大手カメラメーカーが共催するフォトコンテストに人生初めて投稿、ビギナーズラックとは怖いもの、入賞作(数千枚のうちの43作品、賞品は皆無)として選ばれる。「ひょっとすると絵心があるのではないか!?」と錯覚、秘密裏にカメラ&レンズをアップグレード、収納する今風のデイパックを肩に東奔西走の日々が続く。
 
 北海道十勝の老舗ホテル、素材重視の朝食・世界に数ヶ所しかないモール温泉・自然を活かした広大な庭で人気の宿。午前九時「バードウォッチカフェ」、文字通り小鳥の囀りをBGMに、地場産野菜の味を引出した朝食をいただく。窓の向こうは樹齢を重ねた木々の紅葉、手の届く距離でエゾリスが戯れカメラオヤジを手招きする。さすがは野生のリス、体重MAX(丹精込めた朝食が原因!?)のオヤジの追跡を軽くかわし木から木へと。腕時計は正午を指す、帰路のフライトまであと一時間余、柔和な笑みを浮かべたホテルスタッフが「良い写真撮れましたか?」。
 
 長崎在住(小矢部市出身)の竹馬の友と長崎県佐世保に。彼とは一昨年に対馬、昨年は五島列島を巡る旅を決行、海の幸・リアス式海岸・離島に住む人々の優しさに心酔。今回は『九十九島』をリクエスト、正午出航の遊覧クルーズに参加。老若男女を載せた小型船は凪を楽しみ、幾つもの島々が水面に多彩な影を落とす。映画『ラストサムライ』のロケ地として名を馳せた幻想的な世界、カメラを構える者、じっと海を見つめる者、規則正しい船の揺れに身を委ねる者。「どの島が映画の…」「あの島あたりが…」、旅慣れた隣国からの観光客との会話が弾む。
 
 「明、展望台に行こう!」。午後三時、湾内が一望できる石岳展望台(カメラ好きには有名な撮影スポット)へと車を走らせる。駐車場から重いデイパックを背に坂道を登ること数分。無数の島々や数艘の遊覧船が午後の逆光に照らされ眼に飛び込んでくる。“Wow! So beautiful !!”、10数人の欧米系の集団、駐留するアメリカ海軍佐世保基地のスタッフとその家族。写真を撮ってくれとのリクエスト、“I’m Philip ! …”、問わず語りと共に陽が落ちていく。彼らの背後に真っ赤に染まった大海原が、そして九十九島が。腕時計は午後六時を指していた。

J-PRESS 2014年 12月号